前途無難

安全保障関係の記事・東南アジアのテロ情勢など

フィリピン主要事件(2018年5月27日~6月2日)

HEADLINES
1. ミンダナオ島の自治法案が下院で可決
2. ミンダナオ島中心に共産党系過激派との衝突続く
3. 警察官が苦情に立腹して一般市民を射殺

 

1. ミンダナオ島の自治法案が下院で可決

フィリピン議会下院は、イスラーム教徒の多いミンダナオ島西部地域に自治権を与える法案を可決した。

5月30日(水)に採択されたのは「バンサモロ基本法」と呼ばれる法律案で、2014年まで行われたモロ・イスラーム解放戦線(MILF)との和平交渉により形成されたもの。
法律によると、ミンダナオ島西部の「バンサモロ」と呼ばれる地域に居住する少数民族イスラーム教徒が多い)について、自治領を設置することになる。
上院はすでに5月24日(木)に独自の案を採択していたため、両案の融和策が、日本の両院協議会にあたる組織で検討される*1。

法案がドゥテルテ大統領の署名で成立すれば、バンサモロ地域には独自の執政府・立法機関・財政権限が与えられる。国防・安全保障、外交、金融政策については中央政府が引き続き権限を行使する。

法案成立によって、MILFを中心とした分離独立勢力の主流派は、沈静化することが期待されている。また、主流派が沈静化することによって、バンサモロ・イスラーム解放戦線(BIFF)やアブ・サヤフなどの過激派のみを、地域で孤立化する狙いもある*2。

ドゥテルテ大統領は、同島のダバオ市長を長年勤めてきた経緯もあり、法案の成立に以前から意欲を示していた。遅くとも、所信表明演説の行われる7月23日より前に、法案成立を狙っていると見られている。

 

2. ミンダナオ島中心に共産党系過激派との衝突続く

MILFとの和平交渉が進む一方で、共産党系過激派「新人民軍」(NPA)との衝突は続いている。
当週も、ミンダナオ島を中心に国軍との衝突や、暗殺事件などが続いた。
なかでも、サンボアンガ半島では、国軍による大規模掃討作戦が実施されている。

主な事件は以下の通り。
▶ 5月26日(土)ダバオ・オリエンタル州ルポン(Lupon)で、新人民軍(NPA)と国軍が衝突。NPA側1人が死亡、国軍兵士3人が負傷した。NPA側はIEDなど爆発物などを保有していた。

▶5月27日(日)ミサミス・オリエンタル州ラゴングロン(Lagonglon)で新人民軍(NPA)と国軍が衝突。NPA側の2人が死亡し、国軍兵士1人が負傷した。死亡したNPA側の1人は、爆弾供給などを担っていた*3。

▶5月29日(火)南サンボアンガ州ドゥミンガグ(Dumingag)で、NPAに対する国軍の掃討作戦が開始された。NPAの拠点に対するものとみられ、地上軍だけでなく、航空戦力も投入されている*4。

▶5月30日(水)北アグサン州カバドバラン(Cabadbaran)で、NPAのに、地方公務員の男性1人が襲われ、死亡した。

▶5月30日(水)北サンボアンガ州ゴドッド(Godod)で、NPAが道路封鎖を行い、巡回していた警察官から武器を奪うなどした。

なお、NPAの母体であるフィリピン共産党(CPP)はドゥテルテ政権との和平協議に応じる意向を示しており、議会左派も対話を促しているものの、進捗に関する情報はない。

 

3. 警察官が苦情に立腹して一般市民を射殺

5月30日(水)、マリキナ・シティ(Marikina City)で、警察官が住民を暴行・殺害する事件が起きた。
事件が起きたのはマリキナ・シティのアピトン通り(Apitong)付近。
警察官の乗った自転車が自動車に当たったため、自動車に乗っていた2人組が苦情を言おうと車から降りたところ、警察官とその同行者3人がいきなり暴行した。暴行を受けた2人は、銃で報復しようとしたところ、警察に撃ち返され、1人が殺害され、1人が負傷した。
警察官らはその日の夜に、自首している*5。

しばしばいわれることだが、フィリピンでは人を公衆の面前で罵倒したり、大声をあげると、それだけで殺傷事件につながりかねない。公衆の面前で恥をかかせないなどの配慮を怠ると、生命にかかわりうるということは、十分に認識しておくべきである。

 

*1  Reuters, 30 May 2018, Philippine Congress passes autonomy bill for volatile Muslim region, https://www.reuters.com/article/us-philippines-politics-autonomy/philippine-congress-passes-autonomy-bill-for-volatile-muslim-region-idUSKCN1IV167

*2  The Straits Times, 31 May 2018, Philippine lawmakers clear Bill granting Muslim minority self-rule, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/philippine-lawmakers-clear-bill-granting-muslim-minority-self-rule

*3  The Manila Times, 30 May 2018, NPA bomb expert killed in MisOr clashes, http://www.manilatimes.net/npa-bomb-expert-killed-in-misor-clashes/402270/

*4  Inquirer, 31 May 2018. Military strikes rebel lair in Zambo Sur, https://newsinfo.inquirer.net/995999/military-strikes-rebel-lair-in-zambo-sur

*5  Inquirer, 1 June 2018, Pasig cop yields after Marikina road rage; 1 killed, 1 hurt, http://newsinfo.inquirer.net/996423/pasig-cop-yields-after-marikina-road-rage-1-killed-1-hurt

 

タイ主要事件(2018年5月27日~6月2日)

HEADLINES
1. パッターニー県で武装勢力による狙撃事件
2. 不法滞在や人身売買などの集中摘発
3. プーケットで大規模火災

 

1. パッターニー県で武装勢力による狙撃事件

5月31日(木)タイ深南部のパッターニー県コックポー(Khok Pho)で、分離独立勢力による狙撃事件が起きた。
事件は、19時50分頃、バイクに乗って帰宅中の医師の男性が、2人組の男に銃撃されたもので、医師の男性は死亡した*1。

パッターニー県などでは前週の5月20日(日)に、少なくとも14か所で爆弾テロが発生し、少なくとも3人が負傷した。
いずれも、分離独立勢力によるものと見られており、恩赦の獲得や、和平交渉の妨害を意図したものと見られている。

2. 不法滞在や人身売買などの集中摘発

バンコク市内で5月29日(火)、人身売買にかかわったウガンダ人1人が逮捕された。
他の関係者5人がいるとみられていたが、すでに出国していた。
タイではこのところ、セックス・ワーカーや家政婦などとして、ウガンダ人女性が人身売買の被害にあうケースが続いている。
摘発は継続的に行われ、多いときには数十人が「救出」されることもある。

6月1日(金)にも不法滞在者の一斉摘発が行われ、タイ全土で83人が取り調べを受け、44人が逮捕された。

 

3. プーケットで大規模火災

観光地として知られるプーケットで5月27日(日)、大規模な火災が発生した。
火災は、プーケットプーケットにあるチャトゥチャック・プーケット・マーケット(Chatuchak Phuket market)で発生し、店舗など80軒以上が焼けた。
死亡者はなく、消火隊の1人が負傷した。漏電など電気系統のトラブルから出火したと見られている*2。

 

*1  Bangkok Post, 1 June 2018, Doctor killed in Pattani shooting, https://www.bangkokpost.com/news/crime/1477017/doctor-shot-dead-in-pattani5
*2  Bangkok Post, 28 May 2018, 80 shops destroyed in Phuket market fire, https://www.bangkokpost.com/news/general/1474297/80-shops-destroyed-in-phuket-market-fire

 

インドネシア主要事件(2018年5月27日~6月2日)

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1. テロリストに対する摘発が継続中
2. 過激派組織JADの最高指導者に対する判決は6月22日(金)
3. ライオン・エアの航空便で偽の爆弾騒ぎ

 

1. テロリストに対する摘発が継続中

リアウ州で国会議員襲撃計画が露見
6月2日(土)、スマトラ島中北部のリアウ州プカンバル(Pekanbaru)で、国会議員の暗殺を企てた容疑により、3人が逮捕された。
3人はリアウ大学の元学生で、過激派組織JAD(ジェマ・アンシャルート・ダウラー)のメンバーとみられている。
家宅捜索の結果、爆薬に使われる過酸化アセトン(TATP)、パイプ爆弾2発、弓矢などが押収された。
議会議事堂などで爆弾テロを起こし、国会議員複数人を殺害する計画を立てていたと考えられている*1。

スラバヤ周辺では摘発続く
東ジャワ州のスラバヤ市周辺では、5月29日(火)にテロ容疑により4人が逮捕された。詳細は明らかにされていない。
5月31日(木)には、インドネシア国家警察から、スラバヤでのテロに関して最終的に、4人を殺害・41人を逮捕したことも発表された。
自主的に降伏した容疑者もいたことが、明らかにされている*2。
一連のテロ事件を受けた緊急摘発作戦は、5月20日(日)までに終了したものの、捜索などは継続していることが分かる。

 

2. 過激派組織JADの最高指導者に対する判決は6月22日(金)

ジャカルタ地方裁判所は、過激派組織JADの実質的指導者であるアマン・アブドゥッラーマンの判決を、6月22日(金)に言い渡すと決定した。
アマン・アブドゥッラーマンは、JADの指導者であるのみならず、インドネシアでのISILの活動を実質的に指揮しているとされる。
検察はすでに、アマン・アブドゥッラーマンに対して死刑を求刑している*3。

判決の下される当日には、付近で警備体制が強化されると思われるが、アマンに対する抗議活動や、他地域でテロが計画される可能性もある。
一両日は、警戒レベルを高めておくことが望ましいだろう。


3. ライオン・エアの航空便で偽の爆弾騒ぎ

5月28日(月)、カリマンタン島の空港で偽の爆弾騒ぎがあり、乗客11人が負傷した。

事件が起きたのは、スパディオ空港(西カリマンタン州ポンティアナック)発・ジャカルタスカルノハッタ空港(バンテン州タンゲラン)行きのライオン・エアJT687便で、乗客の1人が、他の乗客に対して「爆弾を仕掛けた」などと突然言い出した。
このため、非常ドアに乗客が押しかける騒ぎとなり、転倒するなどで11人が負傷した。
偽の爆弾騒ぎを起こした乗客は警察に拘束されたが、捜索の結果、機内から爆発物は見つからなかった*4。

前日の5月27日(日)にも、同航空のJT280便で、別の偽の爆弾騒ぎが起きていた。
こちらは、ジャカルタスカルノハッタ空港(バンテン州タンゲラン)からクアラルンプール国際空港セランゴール州セパン)に向かう航空便で、離陸前に乗客一人が乗員に爆弾を仕掛けたなどと発言したため、降機させられた。
JT280便は、2時間ほど遅れて離陸した*5。 

悪質ないたずらが続けて起きていることは、テロに対する不安感が広がっていることの反映でもある。

 

*1  The Straits Times, 3 June 2018, 3 held by Indonesian police over alleged terror plot on lawmakers in Riau, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/3-held-by-indonesian-police-over-alleged-terror-plot-on-lawmakers-in-riau

*2  Channel News Asia, 1 June2018, Indonesia police kill 4, arrest 41 suspects in anti-terror raids linked to Surabaya attacks: Report, https://www.channelnewsasia.com/news/asia/indonesia-police-kill-4-arrest-41-suspects-surabaya-attacks-10309620
*3  Benar News, 30 May 2018, Jailed Indonesian Cleric’s Terrorism Trial to Wrap up in Late June, Judge Says, https://www.benarnews.org/english/news/indonesian/indonesia-militants-05302018180059.html

*4  The Straits Times, 30 May 2018, Fake bomb threat on Lion Air flight in Indonesia causes chaos; 11 passengers injured, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/fake-bomb-threat-on-lion-air-flight-in-indonesia-causes-chaos-11-passengers-injured

*5  Wartakota, 28 May 2018, Bercanda soal Bom, Lion Air Jakarta-Kuala Lumpur Tertunda Hampir 3 Jam, http://wartakota.tribunnews.com/2018/05/28/bercanda-soal-bom-lion-air-jakarta-kuala-lumpur-tertunda-hampir-3-jam

フィリピン主要事件(2018年5月20日~26日)

HEADLINES
1. ミンダナオ島周辺で部族紛争「リド」が発生
2. マラウィ市街地占拠事件から1年、帰還進まず

 

1. ミンダナオ島周辺で部族紛争「リド」が発生

ミンダナオ島ならびにスールー諸島で、部族紛争「リド」が発生し、死者が出ている。

5月20日(日)、ミンダナオ島中部の北ラナオ州パンタオ・ラガット(Pantao Ragat)の市長が、移動中に武装集団に襲撃された。
市長は無事だったが、護衛に当たったボディガードの4人は射殺された。
襲撃は、対立する部族からの暗殺者によるものとみられている。

同じく5月20日(日)、ミンダナオ島西部の島嶼地域スールー州マインブン(Maimbung)でも住民グループの銃撃戦が発生し、副市長を含む2人が死亡、10人が負傷した*1。
こちらは、直接的に住民グループが衝突する「リド」の形態である。

ミンダナオ島を中心としたフィリピン南部のイスラーム圏では、こうした「リド」と呼ばれる部族争いがしばしば生じる。
原因は、土地境界をめぐる争いであったり、政治的利権や候補者をめぐるものであったりと様々だが、大規模化すると住民グループの銃撃戦などに発展する。
「リド」は、ミンダナオ島における和平プロセスの阻害要因、あるいは開発政策の障害とされることもある。
今回、「リド」が同じ日に立て続き発生した背景には、前週に行われた地方選挙後の利権配分があると考えられている。


2. マラウィ市街地占拠事件から1年、帰還進まず

南ラナオ州マラウィで、ISILに忠誠を誓うグループと国軍との戦闘が発生して、5月23日(水)で1年が経過した。

中心地となったバト・アリー・モスクの周辺はいまだ不発弾などが残るために立ち入りが規制されており、再建のめどはたっていない。
また、住民のうち70パーセントは帰還したものの、残る30パーセントに相当する約50,000人は、いまだ国内避難民として生活している*2。

マラウィ市街地占拠事件は、日本では「ISILによる市街地占拠事件」として伝えられているが、あまり実態を反映していない。
中心となったのは過激派組織「アブ・サヤフ」と「マウテ・グループ」で、特にマウテ・グループはISILに忠誠を誓ったと公表していたが、バグダーディらISILの「中枢」がこれを受け入れた形跡はない。
むしろ、ISILというブランドを、現地勢力が利用しようとしたというのが、実体に近い。

半年近くに渡ったマラウィ市街地での戦闘によって、南ラナオ州では過激派組織は壊滅状態となったとされ、最近でも、周辺地域に比べたときに南ラナオ州では、テロや銃撃事件の発生情報も少ない。
しかし、周辺地域の特に島嶼部では、いまだアブ・サヤフなどの影響力が強い地域も残る。
戒厳令も完全解除が検討されているものの、実現には至っておらず、依然として武装勢力が活動を再開する可能性があることを、これらは示唆している。

 


*1   Benar News,21 May 2018, 6 Killed in Gun Battles Between Southern Philippine Clans, https://www.benarnews.org/english/news/philippine/philippines-militants-05212018120430.html

*2  The Guardian, 22 May 2018, Marawi one year after the battle: a ghost town still haunted by threat of Isis, https://www.theguardian.com/global/2018/may/22/marawi-one-year-siege-philippines-ghost-town-still-haunted-threat-isis

*3 Rappler, 14 May 2018, 35 killed in suspected barangay, SK elections violence :PNP, https://www.rappler.com/nation/202502-deaths-election-violence-barangay-sk-elections-2018-pnp

 

タイ主要事件(2018年5月20日~26日)

HEADLINES
1. パッターニー県など南部4県で連続爆弾テロ事件
2. 中国人観光客が2週間誘拐被害
3. バンコク市内で民主化デモ阻止

 

1. パッターニー県など南部4県で連続爆弾テロ事件

5月20日(日)、タイ南部のパッターニー県、ヤラー県、ナラーティワート県、ソンクラー県の少なくとも14か所で、銀行やATMにしかけられた爆弾20発以上が爆発した。
死者は出なかったものの、少なくとも3人が負傷した。
分離独立勢力によるものと見られており、恩赦の獲得や、和平交渉の妨害を意図したものと見られている。5月23日(水)までに、パッターニー県で容疑者1人が拘束された。

5月26日(土)にはヤラー県知事がバンコク・ポストのインタビューに答え、マレーシアのマハティール首相の協力を得て、南部の分離独立勢力との和平協議に意欲を示した。


2. 中国人観光客が2週間誘拐被害

バンコクスワンナプーム国際空港で、中国人観光客が2週間にわたり誘拐・監禁されていたことが分かった。

被害に遭った中国人女性は39歳で、香港からバンコクスワンナプーム国際空港に着陸し、まもなく4人組の中国人男性とタイ人女性1人にあとをつけられた。
女性は空港の保安区域のなかで、銃を突きつけられ拉致され、空港を出た。

その後、女性の家族に対し、1000万バーツ(約31万米ドル)の身代金が要求され、同時に女性はバンコク、ラヨーン、パッタヤーなどを14日間にわたって連れまわされた。
女性の配偶者の男性がタイ警察に相談し、警察が解放するよう説得と圧力をかけたところ、5月19日夜23時頃に、バンコク市のバンナー(Bang Na)の路上で解放された。
5月23日(水)までに、事件に関与したとして、タイ人2人が逮捕されている。

このケースは、かなり大掛かりな誘拐事件であり、被害額も小さくない。
タイに限らず、東南アジアでは誘拐事件は一定の頻度で発生しており、人命を狙ったものというよりも金銭目当てやいやがらせ目的であることが多い。

 

3. バンコク市内で民主化デモ阻止

5月22日(火)、バンコクのタンマサート大学で、早期の選挙実施と民主化を求める集団200人から500人が抗議集会を開こうとしたものの、集会防止のためにあらかじめ配置されていた警官隊約3,000人に阻止された。
この日は、2014年に事実上のクーデタが発生した日に当たり、民主化デモが起きることが予期されていた。
目立った暴力は発生していないが、抗議活動を指導した14人が、警察によって身柄を拘束された。

同日、プラユット首相は演説を行い、選挙は2019年の早い段階で行うことを宣言した。
ただし、「それより前倒しすることはありえない」とも指摘しており、抗議運動がしばらく継続するのは、避けられないと見られている。

インドネシアテロ情勢(2018年5月26日まで)

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1. 緊急摘発作戦の終了
2. 反テロ法修正案可決
3. 「帰還外国人戦闘員」問題について

 

1. 緊急摘発作戦の終了

5月20日(日)、5月上旬からの一連のテロ事件に関する緊急摘発作戦について、警察は終了を宣言した。10日強の期間中に14人が殺害され、60人以上が逮捕された。
これにより、当座の問題となりうるターゲット掃討に成功したと、警察は発表した*1。

しかし、警戒態勢が解除されたわけではない。
リアウ諸島州バタム(Batam)にあるハン・ナディム国際空港には、空軍軍人を含む48人の部隊が展開した。テロの脅威が高まったとの判断で、暫定的にイード・アル・フィトル(ラマダーン明けの休暇)までは展開することが決まっている*2。

中スラウェシ州ポソでも、過激派組織「東インドネシアのムジャヒディン」(MIT)などによるテロに備え、警備体制が強化された*3。
これらの動きは、依然としてテロの発生する可能性が高い状態が、インドネシア各地で続いていることを示している。

 

2. 反テロ法修正案可決

5月25日(金)にインドネシア議会は、反テロ法(2004年制定)の修正案を可決した。
修正案は2016年から審議されてきたが、スラバヤでのテロ事件を受けて可決を急いだ。
修正案の要点は以下の3点で、いずれもインドネシアにおけるテロ対策を軍事的に積極化し、摘発を容易化する。

インドネシア国軍について、大統領の指揮に基づく対テロ摘発において担う権限を拡大する
②テロ容疑者について警察は、訴追なしで21日間の拘留が認められる。
③テロ容疑者の起訴後、検察に身柄を引き渡すまでに、警察に200日間の捜査機関が与えられる*4。

修正対テロ法については、国軍と警察とのあいだでの権限配分懸念、長期拘留による人権侵害、といった懸念が示されている。

また、一連のテロ事件について、むしろ喫緊の改善が必要とされるのは、刑務所システムであろう。
事件の発端となったのは、5月9日(水)に西ジャワ州デポックの重警備区刑務所で暴動が起きたことであり、それも、イデオロギー的に組織されたテロではなく、食事をめぐる受刑者と看守側との争いが発端である。
これを発火点として「芋づる式」にテロが起きた点には、ISILなどの影響力を考慮する前は、注目に値する。

スラバヤ市のテロについても、アマン・アブドゥッラーマンの指示の有無などが巷説流布されているが、その事実関係はともかく、収監されている人物が「指示可能」であるとみなされている点にも留意すべきだろう。
事実、インドネシアの刑務所では週2回の接見が認められ、テロの指示や資金調達の方法についての指示が可能とされる。
これらからわかるのは、刑務所システムを抜本的に解決しない限り、テロの指示系統は寸断されないということだと考えられる。

 

3. 「帰還外国人戦闘員」問題について

インドネシアからシリアやイラクにISILの戦闘員として590人が渡航していると、5月22日(火)に大統領補佐官が明らかにした。また、これまでに103人が殺害され、86人が自発的に帰還、539人が強制送還されたことも、あわせて公表された*5。

この発表は、当初、スラバヤ市の爆弾テロ容疑者がISILからの帰還戦闘員であるとの報道を受け(のちに警察が否定)、ISILへの渡航者については政府が把握していることを示す狙いがあるとみられる。

強制送還された人員を含め、1,000人以上がISILに関与しようとするほどインドネシアでも過激主義が広がっている点は、地域の安全保障を脅かし続けているといえよう。

 

*1  Jakarta Globe, 26 May 2018, Unprecedented Attacks Provide New Window to Understand and Tackle Terrorism in Indonesia, http://jakartaglobe.id/news/unprecedented-attacks-provide-new-window-understand-tackle-terrorism-indonesia/

*2  The Jakarta Post, 22 May 2018, Personnel deployed to protect Batam airport against terror threats, http://www.thejakartapost.com/news/2018/05/22/personnel-deployed-to-protect-batam-airport-against-terror-threats.html

*3  Benar News, 23 May 2018, Poso Police Increase Security Following Terror Attacks Elsewhere in Indonesia, https://www.benarnews.org/english/news/indonesian/mit-update-05232018163415.html

*4  ABC News, 25 May 2018, Indonesia introduces new anti-terror laws in wake of Surabaya attacks, http://www.abc.net.au/news/2018-05-25/indonesia-introduces-new-anti-terror-laws-after-surabaya-attacks/9797820

*5  The Straits Times, 22 May 2018, 590 Indonesians still in ISIS territory, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/590-indonesians-still-in-isis-territory

フィリピン主要事件(2018年5月13日~19日)

HEADLINES
1. スールー州で過激派組織アブ・サヤフと国軍が衝突
2. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く
3. 米国人男性がネグロス島で射殺される

 

1. スールー州で過激派組織アブ・サヤフと国軍が衝突

スールー州パティクルで5月13日(日)、国軍が「アブ・サヤフ」の拠点を攻撃した。
これにより、アブ・サヤフ側の11人が殺害された。
国軍側も、レンジャー2人を含む3人が死亡、17人が負傷する被害を受けた。
アブ・サヤフは同地域で、4月29日に拉致した警察官2人を含む複数人を人質としており、国軍は奪還を目指していた*1。

その拉致されていた警察官2人は、5月16日(水)にスールー州で解放された。
この際、拉致に関係した過激派のメンバーが逮捕されている*2。

過激派組織アブ・サヤフは、2017年夏にミンダナオ島で発生した市街地占拠事件(南ラナオ州マラウィ)において、実質的な指導者であるイスニロン・ハピロンが死亡し、大幅に勢力を失っていた。
さらに、2週間前には、精神的指導者であるヤシル・イガサン(Yasir Igasan)が死亡し、過激派組織アブ・サヤフが分裂した可能性がある、とフィリピン国軍が明らかにしていた。

 

2. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く

5月14日(月)に、フィリピンでは地方選挙が実施された。

選挙そのものはおおむね「平和的」に実施されたと発表されたが、前日までに30人以上が関連事件で殺害された。
フィリピン国家警察が発表したところによると、地方選挙に関する暴力によって、1か月間に35人が死亡、27人が負傷した。
また、同期間中に摘発された銃火器は1157丁に達し、手榴弾79発、その他爆発物350発も押収された*3。

選挙後も、当選者への不服などでしばらく暴力行為が横行する可能性が高い。
フィリピン国家警察は、「選挙特別警戒期間」を選挙1週間後(5月20日)までとしており、事後といっても即座に警戒を解く体制をとっていない。

3. 米国人男性がネグロス島で射殺される

グロス・オキシデンタル州シライ(Silay)で、アメリカ人男性1人が酔漢に銃撃され殺害された。

事件が起きたのは、5月15日(火)で、アメリカ人男性は、バーで酔漢にしつこくからまれたために、身体を押しのけてその場から立ち去るように言ったところ、激高した酔漢に銃で撃たれた。
酔漢は親族と一緒にいたのだが、この親族も仲裁しないばかりか、銃を渡すなどした。

 

 

*1  The Straits Times, 14 May 2018, 11 militants killed in Abu Sayyaf stronghold in southern Philippines, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/11-militants-killed-in-abu-sayyaf-stronghold-in-southern-philippines

*2  Benar News, 16 May 2018, Abu Sayyaf Militants Free 2 Captives in Southern Philippines, https://www.benarnews.org/english/news/philippine/philippines-militants-05162018101042.html

*3  Rappler, 14 May 2018, 35 killed in suspected barangay, SK elections violence :PNP, https://www.rappler.com/nation/202502-deaths-election-violence-barangay-sk-elections-2018-pnp