前途無難

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インドネシアの連続テロ事件(2018年5月19日まで)

HEADLINE
1. ジャワ島・スマトラ島でテロ続く
2. スラバヤ市での連続テロ事件詳細
3. 対テロ特殊部隊が摘発急ぐ

 

1. ジャワ島・スマトラ島でテロ続く

前週の5月9日(水)から、インドネシアではテロ事件が相次いでいる。
当週はジャワ島、スマトラ島中北部でテロが起きた。

まず、前週発生した主なテロ関連事件を振り返ると、次の通りである。
▶5月9日(水)  西ジャワ州デポックの重警備区刑務所(Mako Brimob)で暴動
▶5月10日(木)西ジャワ州デポックの暴動の起きた刑務所外で、2人組が警察官を刺殺
▶5月10日(木)西ジャワ州ブカシで、刑務所暴動の「支援」に向かった過激派4人逮捕
▶5月12日(土)ジャカルタ市の警察機動隊本部を、刃物で襲おうとした2人の女性逮捕
前週のサマリーはこちら

インドネシアの連続テロ事件(2018年5月13日まで) - 前途無難

当週は、次のようなテロ事件が発生した。
▶5月13日(日)西ジャワ州チアンジュルで早朝、警察の特殊部隊とテロの容疑者4人組が銃撃戦を起こし、4人すべて射殺。
▶5月13日(日)東ジャワ州スラバヤ市で連続爆弾テロが発生、13人死亡・40人負傷。
▶5月13日(日)東ジャワ州シドアルジョの警察署付近にあるアパートメントで爆発、
       家族5人のうち3人死亡・2人負傷。
▶5月14日(月)東ジャワ州スラバヤ市の警察本部で爆弾テロが発生、
       実行犯4人死亡、市民6人・警察官4人負傷
▶5月16日(水)リアウ州プカンバルの警察署に刃物を持った4人組が車で突入、
       警察官1人を殺害。容疑者は射殺。

インドネシアでは2010年以降、対人被害の出るテロ事件は10件以下であり、この続発は異例である。
また、ターゲットについての変化も見られ、ここ数年のテロは警察など治安組織を標的としたものだったが、スラバヤ市では無差別テロに「成功」してしまった。
大都市の人の集まりやすい場所、宗教施設、ナイトクラブなどは、標的として少なくとも「検討」されていると考えておいたほうがよいだろう。
2000年代にはJWマリオットなどのホテルが標的にされていたことから、宿泊先でもなるべく低層階を避ける、ロビーなどから安全な部屋に早めに移動する、といった注意を払うことも望ましい。

一方。警察や官公庁は、この数年で最も頻繁に狙われるターゲットであるため、接近しないまたは必要最小限の接近にすべきである。
実際に、リアウ州では警察狙いのテロが発生している(5月16日)

2. スラバヤ市での連続テロ事件詳細

a)  スラバヤの教会爆破事件(続報)
5月13日(日)、スラバヤ市の教会3か所(ディポネゴロ・インドネシアキリスト教会、サンタ・マリア・カトリック教会、スラバヤ中央ペンテコステ教会)で爆弾テロが発生した。
爆弾テロは日曜日の礼拝開始時間直前を狙ったもので、13人死亡・40人以上負傷した。
その後、同市の2つの教会でも爆弾が発見されたが、こちらは未遂に終わった。
未遂の爆弾テロが仕掛けられたのは、下記の2か所。
①聖ヤコブ教会:所在地は西スラバヤのシトラランド住宅施設(Citraland housing complex)
②イエスの聖心教会:所在地はポリシ・イスティメワ(Polisi Istimewa)*1

b) 東ジャワ州シドアルジョで「誤爆

同じ5月13日(日)夜21時頃、東ジャワ州シドアルジョ(Sidoarjo)のタマン警察署裏手のアパートメントで爆発が起き、家族5人のうち3人が死亡、子供2人が負傷した。
テロのために用意していた爆薬が、誤って爆発したために起きたと見られている。
その後の調査で、このときに用意されていた爆発物は、スラバヤ市の教会爆破に利用されていたものと同じ過酸化アセトン(TATP)だったことが明らかになっている*2。

c) スラバヤ警察本部で爆弾テロ

続いて、翌5月14日(月)スラバヤ警察本部で爆弾テロが発生し、実行犯の5人家族のうち4人が死亡した。
爆発により、市民6人・警察官4人が負傷した。
教会爆破事件の実行犯一家と、この事件の実行犯一家は友人関係にあったと報じられている*3。

これらの一連の事件から推測すると、同調者は少なからぬ数がいるのは間違いない。
後述のように、取り締まり強化のために一時的には「沈静化」すると思われるが、常にテロを起こす「機会」を探されていると見ておくべきだろう。


3. 対テロ特殊部隊が摘発急ぐ

テロの頻発を受け、対テロ特殊部隊「デタッチメント88」を中心とした摘発が、各地で行われた。

a) ジャワ島での摘発

▶5月15日(火)東ジャワ州スラバヤ、マラン(Malang)、パスルアン(Pasuruan)で摘発が行われ、13人逮捕
マランでは、東ジャワ州でのJAD指導者で、「アブー・ウマル」を名乗る男性が逮捕された。
また、容疑者1人を取り締まりの過程で射殺*4 

▶5月16日(水)バンテン州タンゲランの2か所で対テロ特殊部隊の摘発が行われ、男性3人、女性1人を逮捕*5
▶5月17日(木)東ジャワ州で、テロ関係者23人を逮捕、取り締まり中に4人を射殺*6

b) スマトラ島での摘発

▶5月16日(水)北スマトラ州警察は、タンジュンバライ(Tanjung Balai)などでテロの容疑者複数人を逮捕
メダン市でも少なくとも2人が逮捕され、取り締まりの過程で、容疑者1人を射殺・1人を負傷させたことも公表した。
▶5月17日(木)リアウ州でテロ容疑者8人を逮捕し、武器(詳細不明)やISILの旗などを押収したと発表

拘束者のなかにも女性が含まれているが、一連のテロ事件で問題視されているのが、子供や女性が実行犯として加わったことである。
インドネシアでは2016年12月に自爆テロ未遂で女性2人が逮捕されており、また、1990年代のいわゆる「ポソ宗教戦争」でも子供兵の利用が指摘されている。
これらをふまえると、インドネシアでテロや武装闘争に女性や子供が加わるのは、必ずしも「初めて」の現象とは言えない。
だが、一般には自爆テロに関与させることには反感が根強く、インドネシアウラマー評議会などが次々に非難声明を出している。

 

 

*1  Time, 14 May 2018, Indonesia Suffers Its Worst Terrorist Attack in a Decade. Here's What to Know About the Latest Wave of Violence, http://time.com/5275738/indonesia-suicide-bombings-isis-surabaya/
*2 The Jakarta Post, 13 May 2018, Two children survive premature bomb explosion in Sidoarjo, http://www.thejakartapost.com/news/2018/05/13/two-children-survive-premature-bomb-explosion-in-sidoarjo.html

*3 Time, 14 May 2018, Ten Injured in Explosion at Surabaya's Police Headquarters, Indonesian Officials Say, http://time.com/5275768/indonesia-surabaya-police-explosion/

*4 The Daily Telegraph, 15 May 2018, One dead, arrests in Indonesia terror raid, https://www.dailytelegraph.com.au/news/breaking-news/indon-suicide-bombs-work-of-two-families/news-story/5cb68ad5a2d8f9b0ed7acaa42c51493e

*5 The Jakarta Post, 16 May 2018, Police arrest three suspected terrorists in Tangerang, http://www.thejakartapost.com/news/2018/05/16/police-arrest-three-suspected-terrorists-in-tangerang.html

*6 The Straits Times,18 May 2018, Indonesia nabs dozens of terror suspects, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/indonesia-nabs-dozens-of-terror-suspects