前途無難

安全保障関係の記事・東南アジアのテロ情勢など

インドネシアテロ情勢(2018年5月26日まで)

HEADLINES
1. 緊急摘発作戦の終了
2. 反テロ法修正案可決
3. 「帰還外国人戦闘員」問題について

 

1. 緊急摘発作戦の終了

5月20日(日)、5月上旬からの一連のテロ事件に関する緊急摘発作戦について、警察は終了を宣言した。10日強の期間中に14人が殺害され、60人以上が逮捕された。
これにより、当座の問題となりうるターゲット掃討に成功したと、警察は発表した*1。

しかし、警戒態勢が解除されたわけではない。
リアウ諸島州バタム(Batam)にあるハン・ナディム国際空港には、空軍軍人を含む48人の部隊が展開した。テロの脅威が高まったとの判断で、暫定的にイード・アル・フィトル(ラマダーン明けの休暇)までは展開することが決まっている*2。

中スラウェシ州ポソでも、過激派組織「東インドネシアのムジャヒディン」(MIT)などによるテロに備え、警備体制が強化された*3。
これらの動きは、依然としてテロの発生する可能性が高い状態が、インドネシア各地で続いていることを示している。

 

2. 反テロ法修正案可決

5月25日(金)にインドネシア議会は、反テロ法(2004年制定)の修正案を可決した。
修正案は2016年から審議されてきたが、スラバヤでのテロ事件を受けて可決を急いだ。
修正案の要点は以下の3点で、いずれもインドネシアにおけるテロ対策を軍事的に積極化し、摘発を容易化する。

インドネシア国軍について、大統領の指揮に基づく対テロ摘発において担う権限を拡大する
②テロ容疑者について警察は、訴追なしで21日間の拘留が認められる。
③テロ容疑者の起訴後、検察に身柄を引き渡すまでに、警察に200日間の捜査機関が与えられる*4。

修正対テロ法については、国軍と警察とのあいだでの権限配分懸念、長期拘留による人権侵害、といった懸念が示されている。

また、一連のテロ事件について、むしろ喫緊の改善が必要とされるのは、刑務所システムであろう。
事件の発端となったのは、5月9日(水)に西ジャワ州デポックの重警備区刑務所で暴動が起きたことであり、それも、イデオロギー的に組織されたテロではなく、食事をめぐる受刑者と看守側との争いが発端である。
これを発火点として「芋づる式」にテロが起きた点には、ISILなどの影響力を考慮する前は、注目に値する。

スラバヤ市のテロについても、アマン・アブドゥッラーマンの指示の有無などが巷説流布されているが、その事実関係はともかく、収監されている人物が「指示可能」であるとみなされている点にも留意すべきだろう。
事実、インドネシアの刑務所では週2回の接見が認められ、テロの指示や資金調達の方法についての指示が可能とされる。
これらからわかるのは、刑務所システムを抜本的に解決しない限り、テロの指示系統は寸断されないということだと考えられる。

 

3. 「帰還外国人戦闘員」問題について

インドネシアからシリアやイラクにISILの戦闘員として590人が渡航していると、5月22日(火)に大統領補佐官が明らかにした。また、これまでに103人が殺害され、86人が自発的に帰還、539人が強制送還されたことも、あわせて公表された*5。

この発表は、当初、スラバヤ市の爆弾テロ容疑者がISILからの帰還戦闘員であるとの報道を受け(のちに警察が否定)、ISILへの渡航者については政府が把握していることを示す狙いがあるとみられる。

強制送還された人員を含め、1,000人以上がISILに関与しようとするほどインドネシアでも過激主義が広がっている点は、地域の安全保障を脅かし続けているといえよう。

 

*1  Jakarta Globe, 26 May 2018, Unprecedented Attacks Provide New Window to Understand and Tackle Terrorism in Indonesia, http://jakartaglobe.id/news/unprecedented-attacks-provide-new-window-understand-tackle-terrorism-indonesia/

*2  The Jakarta Post, 22 May 2018, Personnel deployed to protect Batam airport against terror threats, http://www.thejakartapost.com/news/2018/05/22/personnel-deployed-to-protect-batam-airport-against-terror-threats.html

*3  Benar News, 23 May 2018, Poso Police Increase Security Following Terror Attacks Elsewhere in Indonesia, https://www.benarnews.org/english/news/indonesian/mit-update-05232018163415.html

*4  ABC News, 25 May 2018, Indonesia introduces new anti-terror laws in wake of Surabaya attacks, http://www.abc.net.au/news/2018-05-25/indonesia-introduces-new-anti-terror-laws-after-surabaya-attacks/9797820

*5  The Straits Times, 22 May 2018, 590 Indonesians still in ISIS territory, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/590-indonesians-still-in-isis-territory