前途無難

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ベトナムで反中デモ(2018年6月10日)

ベトナムで、実質的な反中デモが各地で発生した。
表向きは経済特区法案に反対するデモだが、実質的には蓄積する反中感情が噴出したとみたほうがよさそうだ。

 

6月10日(日)に前後して、ベトナム全土で抗議集会が行われたのは、インターネットに関する規制ならびに経済特区に関する法案に反対するもの。
特に集中したのが6月10日(日)で、ハノイでは抗議行動の前に主催者など10人以上が逮捕された。
ホーチミン市では、数千人が市中心部のグエンフエ通りや聖母マリア教会などを行進し、タンソンニャット国際空港付近でも行われた(このため、空港付近ではひどい渋滞が発生したそうだ)。

中部にあるビントゥアン省ではデモが最も過激化した。
参加者の一部が人民委員会庁舎などに投石や火炎瓶の投擲などを行い、警察官20人以上が負傷、デモ側の102人が拘束された。
政府はこうした行動を、「反国家分子による策動」であると批判している。

デモ側がもっとも反発しているのは、経済特区に関し、投資家に対する土地リース期間を最長99年とするという優遇措置で、政府はこの条項の削除をすでに発表していたにもかかわらず、強い抗議を招いた。

 

こうした反発の背景には、複数の原因がある。
第一に、2014年に発生した中国による石油掘削に反対するデモのように、領土問題に関する係争があげられる。
国内の一部を中国の投資家に任せれば、それが実質的な「割譲」になるのではないか、という懸念である。
第二に、親中国派がトップを占める現行の体制への反感もある。
ベトナム共産主義を取るとはいえ、必ずしも親中国派であるとは限らず、指導部によっては逆に傾くこともある(特にホーチミン出身者が指導層を占めるとき、親中派ではなくなりやすいとされる)。
しかし、現指導部はかなり中国寄りであることは周知のことで、これに対する反感の表現であると見ることもできる。
また、第三に、市民のあいだに反中感情がそもそも広がっていることも挙げられる。
中越戦争の経験者がいまだ多いこともあり、中国とベトナムとの関係は市民レベルでも良好とはいえない。
街中で聞いても、中国と同一視されるのを嫌うベトナム市民はかなり多いのだ。
中国政府は在越華人に対して注意を呼び掛けたが、現時点では在越華人や在越邦人への嫌がらせは起きていないようである。