前途無難

安全保障関係の記事・東南アジアのテロ情勢など

「コマツ製重機がミャンマーの人権侵害に関与」との報告書

ミャンマー北部の紛争地域、カチン州フパカン(Hpakant)にあるヒスイ鉱山で、日本製の重機が「非人道的」な鉱山開発に利用されている。
このにわかには理解しがたい事態を指摘する報告書が、スウェーデンの慈善団体から発表された。

報告書を発表したのは、ストックホルムに拠点を置く慈善団体「スウェドウォッチ」(Swedwatch)で、キャタピラー(米国)、ボルボスウェーデン)、コマツ(日本)の重機が、ミャンマーの鉱山で利用されていると明らかにした。
これらの企業は、ミャンマー北部での鉱山開発に関する人権侵害を認識することができず、結果的にこうした人権侵害に手を貸している、というのが報告の趣旨である*1。

 

フパカンのヒスイ鉱山では、労働者の非人道的な待遇や危険な労働環境、環境破壊などをめぐって、しばしば問題が指摘されてきていた。
特に、問題とされるのは2点ある。
ひとつは、鉱山開発についての安全管理が徹底されていないために、土砂崩れや斜面崩壊などを引き起こし、十人以上が死傷する事故がしばしば発生することだ。
いまひとつは、労働者の待遇が劣悪で、収容所のようなところで労働を強いられていることである。
賃金を含む労働待遇をめぐって、暴動に発展することもあるが、警察や軍の支援を得た企業により強制的に鎮圧されてしまうことがほとんどだ。
コマツを含む企業3社は、意図的ではないものの、こうした問題を認識できなかった点について、「スウェドウォッチ」は懸念を示している。

 

一方、これについてロイターは、全世界的に展開するこれらの企業がすべての製品の最後の行方まで把握するのは不可能だと、指摘する。

「世界全体において、すべての製品を一企業がきちんと確認するのは不可能です。
製品のライフサイクルのなかで、また多様な利用者を経由するなかで、人権侵害のリスクを冒している状況にたどり着かないようにできる保証はありません。」

ボルボの担当者はこのように述べた、とロイターは伝えている*2。

 

この反論は当然だろう。
たとえば、トヨタ製のピックアップは中東の「イスラーム国」で好んで利用された。
では、トヨタは「イスラーム国」に利用されるおそれを認識していなかったと、糾弾されるべきなのだろうか。
ひとたびいずれかのユーザーに販売したあと、複数の中古業者を介してどこに流れ着いたかを確認するのは、不可能に近い。
こうした問題まで、「グローバル化」した企業にネガティヴな責任を科すとなると、中古品販売業――それこそメルカリやヤフオクまで含めて――まで全面的なマーケットの監視機構が必要になる。
あるいは、トヨタソニー――コマツは一般顧客は買わないだろうが――は、買った顧客に転売規制をかけるのが、望ましいことなのだろうか。
ミャンマーの、言い方は悪いが「辺境」に近い地域で、何度転売されたかわからない製品が利用されている責任を企業が負うべきとは、考えにくい。

 

他方、企業側はこのようなエクスキューズが成り立つといっても、ある程度はそうした問題に対応を迫られた場合を想定しておく必要がありそうだ。
上記の通り、「イスラーム国」でトヨタ車が多数使われていたことについて、米国財務省トヨタに情報提供を要求した。
今後もこういったケースは散発的に現れるだろう。
グローバル化」を寿いでいた20年前では想像できなかったリスクを、国際的な商取引網の発達が企業に押し付けている。
これらは、ある意味では興味深い現象ともいえそうだ。

 

*1  Swedwatch, 20 June 2018, Machinery Providers Fail to Recognize Human Rights Risks in Myanmar's Jade Mines, http://www.swedwatch.org/en/publication/report/machinery-providers-fail-recognize-human-rights-risks-myanmars-jade-mines/
*2  Reuters, 20 June 2018, Caterpillar, Volvo, Komatsu linked to mining abuses in Myanmar: report, https://www.reuters.com/article/us-myanmar-mining-rights/caterpillar-volvo-komatsu-linked-to-mining-abuses-in-myanmar-report-idUSKBN1JG0E3
*3  ウォールストリートジャーナル(日本版), 2015年10月8日, 「ISはなぜトヨタ車を愛用するのか-米が説明要求」, https://jp.wsj.com/articles/SB11828848094781684513604581280681440845092