前途無難

安全保障関係の記事・東南アジアのテロ情勢など

フィリピン主要事件(2018年5月20日~26日)

HEADLINES
1. ミンダナオ島周辺で部族紛争「リド」が発生
2. マラウィ市街地占拠事件から1年、帰還進まず

 

1. ミンダナオ島周辺で部族紛争「リド」が発生

ミンダナオ島ならびにスールー諸島で、部族紛争「リド」が発生し、死者が出ている。

5月20日(日)、ミンダナオ島中部の北ラナオ州パンタオ・ラガット(Pantao Ragat)の市長が、移動中に武装集団に襲撃された。
市長は無事だったが、護衛に当たったボディガードの4人は射殺された。
襲撃は、対立する部族からの暗殺者によるものとみられている。

同じく5月20日(日)、ミンダナオ島西部の島嶼地域スールー州マインブン(Maimbung)でも住民グループの銃撃戦が発生し、副市長を含む2人が死亡、10人が負傷した*1。
こちらは、直接的に住民グループが衝突する「リド」の形態である。

ミンダナオ島を中心としたフィリピン南部のイスラーム圏では、こうした「リド」と呼ばれる部族争いがしばしば生じる。
原因は、土地境界をめぐる争いであったり、政治的利権や候補者をめぐるものであったりと様々だが、大規模化すると住民グループの銃撃戦などに発展する。
「リド」は、ミンダナオ島における和平プロセスの阻害要因、あるいは開発政策の障害とされることもある。
今回、「リド」が同じ日に立て続き発生した背景には、前週に行われた地方選挙後の利権配分があると考えられている。


2. マラウィ市街地占拠事件から1年、帰還進まず

南ラナオ州マラウィで、ISILに忠誠を誓うグループと国軍との戦闘が発生して、5月23日(水)で1年が経過した。

中心地となったバト・アリー・モスクの周辺はいまだ不発弾などが残るために立ち入りが規制されており、再建のめどはたっていない。
また、住民のうち70パーセントは帰還したものの、残る30パーセントに相当する約50,000人は、いまだ国内避難民として生活している*2。

マラウィ市街地占拠事件は、日本では「ISILによる市街地占拠事件」として伝えられているが、あまり実態を反映していない。
中心となったのは過激派組織「アブ・サヤフ」と「マウテ・グループ」で、特にマウテ・グループはISILに忠誠を誓ったと公表していたが、バグダーディらISILの「中枢」がこれを受け入れた形跡はない。
むしろ、ISILというブランドを、現地勢力が利用しようとしたというのが、実体に近い。

半年近くに渡ったマラウィ市街地での戦闘によって、南ラナオ州では過激派組織は壊滅状態となったとされ、最近でも、周辺地域に比べたときに南ラナオ州では、テロや銃撃事件の発生情報も少ない。
しかし、周辺地域の特に島嶼部では、いまだアブ・サヤフなどの影響力が強い地域も残る。
戒厳令も完全解除が検討されているものの、実現には至っておらず、依然として武装勢力が活動を再開する可能性があることを、これらは示唆している。

 


*1   Benar News,21 May 2018, 6 Killed in Gun Battles Between Southern Philippine Clans, https://www.benarnews.org/english/news/philippine/philippines-militants-05212018120430.html

*2  The Guardian, 22 May 2018, Marawi one year after the battle: a ghost town still haunted by threat of Isis, https://www.theguardian.com/global/2018/may/22/marawi-one-year-siege-philippines-ghost-town-still-haunted-threat-isis

*3 Rappler, 14 May 2018, 35 killed in suspected barangay, SK elections violence :PNP, https://www.rappler.com/nation/202502-deaths-election-violence-barangay-sk-elections-2018-pnp