前途無難

安全保障関係の記事・東南アジアのテロ情勢など

フィリピン主要事件(2018年5月6日~12日)

HEADLINES
1. ケソン・シティでISIL系過激主義者を拘束
2. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く
3. 「麻薬戦争」による死者は21か月で4200人超

 

1. ケソン・シティでISIL系過激主義者を拘束

 5月7日(月)ケソン・シティのクバオ地区(Cubao)で、過激派組織「マウテ・グループ」の幹部ウンデイ・マカダート(Unday Macadato)が逮捕された。
周辺住民から、銃火器を見せるなどして威嚇している男がいるとの通報がなされたため、違法銃所持容疑で警察が身柄を拘束したところ、マカダート容疑者と判明した。

 「マウテ・グループ」とは、ミンダナオ島を拠点にISILに忠誠を誓う組織である。
2017年夏に、ミンダナオ島の南ラナオ州マラウィ市で、アブ・サヤフとともに市街地占拠事件を起こしたことで、その名が知られるようになった。
現在は、その後の掃討作戦でほぼ壊滅状態と見られている。
マカダート容疑者は、マウテ・グループに関する摘発リストの上位に登録されていた。

 こうした過激主義者が、マニラ近郊に侵入しており、かつ銃火器を保持していたことには注意を払うべきだろう。
4月27日(金)にも、ラグナ州でISILに近い「ラジャ・ソレイマン運動」のメンバーが逮捕される事件が起きており(その週のサマリーはこちら→ フィリピン主要事件(2018年4月22日~28日) - 前途無難)、個人単位でローンウルフ・テロが起きても不思議ではないことが分かる。


2. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く

 2018年5月14日(月)に、フィリピンでは地方選挙が予定されているが、依然としてこの選挙をめぐる暴力事件・殺人事件が横行している。
5月10日(木)までに、選挙関係者少なくとも24人が殺害されたことが判明しており、フィリピン国家警察によると、少なくとも20件の暴力事件で、死傷者は57人にのぼった。

 当週、確認されただけで以下のような事件が起きている。
▶ 5月10日(木)リサール州アンティポロ(Antipolo)で、地方議会議長の男性が公用車で帰宅中に襲われ、射殺
▶ 5月10日(木)ケソン州サリアヤ(Sariaya)で、町議会議員の男性が自宅にいるところを3人組の集団に襲われ、射殺
▶ 5月12日(土)ラウニオン州アグー(Agoo)で、州選出の元国会議員ボディガード2人とともに射殺
▶ 5月12日(土)南サンボアンガ州ラバンガン(Labangan)で、選挙報道に関係する男性がハイウェイ上で襲われ、殺害

 選挙が終わればこうした傾向は沈静化するとみられるが、そもそも銃器の流通量の多い国家であり、選挙以外の要因でも殺人事件が普段から頻発していることには、注意しておくべきだろう。


3. 「麻薬戦争」による死者は21か月で4200人超

 フィリピン国家警察は、2016年7月から麻薬取締作戦(通称「麻薬戦争」)により、4,251人の容疑者を殺害した、と公表した(5月7日)。
発表によると、取締作戦によって、21か月のあいだに98,799件の取締が実施され、逮捕者総数は14万2069人にのぼった。

 ドゥテルテ政権の「麻薬戦争」をめぐっては、国際人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」が12,000以上死亡したとの推計を出していたほか、上院議員アントニオ・トリラネス氏は2万322人が死亡したとの推計結果を2018年2月に発表していた。
今回の発表は、これらの批判を念頭に、「正確な数字」を明らかにすることで批判を回避する狙いがあると見られる。

 しかし、21か月で4200人超という数字は、単純計算で月200人が殺害されていることを意味する。
この公表が、はたしてむやみな殺人を抑制していることになるようなものなのか、疑問ではある。
なお、こうした「殺害」はマニラ首都圏の近郊でも発生している。