前途無難

安全保障関係の記事・東南アジアのテロ情勢など

タイ主要事件(2018年5月13日~19日)

HEADLINES
1. チェンライなどで麻薬密輸犯と警察が銃撃戦
2. 「バンコク・ポスト」編集者解任に批判集まる

 

1. チェンライなどで麻薬密輸犯と警察が銃撃戦

麻薬密輸犯と警察との銃撃について、目立った事件が2件発生した。

5月14日(月)、チェンライ県ウィエンパーパオ(Wieng Pa Pao)で、覚醒剤メタンフェタミンや麻薬ヘロインなどを密輸していた集団と警察が銃撃戦となり、密売人2人が射殺された。
警察が設置していた検問所をトラックが突破したために警察が追跡、停止命令を出したところ発砲されたために銃撃戦となった。
車からはメタンフェタミンの錠剤500万錠、ヘロイン200ブロックなどが押収された*1。

5月15日(火)には、ピッサヌローク県プロンフィラム(Prom Phiram)で麻薬の密売人と警察が銃撃戦となり、密売人1人が射殺された。

タイ警察は麻薬密輸について、上記のように射殺も辞さない姿勢をとっている。

2. 「バンコク・ポスト」編集者解任に批判集まる

5月14日(月)、主要紙バンコク・ポストの編集者が、軍政に対する批判特集を組んだために解任された、と発言し、物議をかもしている。
当月で、軍による実質的なクーデタによってプラユット政権が成立して4年に至る。
重要な政治課題となっているのは総選挙であり、実施はたびたび延期され、バンコクなどではデモが行われている。
この点を批判したバンコク・ポストの特集は、むしろタイにおける言論の自由を保障するものと見られていただけに、元編集者の「告発」には、驚きが広がった。
一方、バンコク・ポスト側は、政権からの圧力などではなく経営上の理由であるとし、編集者の任期もまもなく切れる、と主張している*2。

最近、隣国カンボジアがフン・セン首相のもとで最近「強権体制化」を進め、「プノンペン・ポスト」を自らに近い企業に売却したことなどが、想起される。
タイではただちにそのような事態に至るとは考えにくいものの、バンコク・ポストの姿勢に対するデモンストレーションや、早期の総選挙実施を求める運動などが勢いづくことは考えられ、市中の広場やショッピングモールなどでは、念のために注意しておきたい。

 

*1 The Nation, 14 May 2018, Two suspects with massive haul of meth, heroin killed in Chiang Rai shootout, http://www.nationmultimedia.com/detail/breakingnews/30345341
*2  Financial Times, 15 May 2018, Bangkok Post editor sacked after critical coverage of Thai junta, https://www.ft.com/content/b0f44360-5829-11e8-bdb7-f6677d2e1ce8

 

インドネシアの連続テロ事件(2018年5月19日まで)

HEADLINE
1. ジャワ島・スマトラ島でテロ続く
2. スラバヤ市での連続テロ事件詳細
3. 対テロ特殊部隊が摘発急ぐ

 

1. ジャワ島・スマトラ島でテロ続く

前週の5月9日(水)から、インドネシアではテロ事件が相次いでいる。
当週はジャワ島、スマトラ島中北部でテロが起きた。

まず、前週発生した主なテロ関連事件を振り返ると、次の通りである。
▶5月9日(水)  西ジャワ州デポックの重警備区刑務所(Mako Brimob)で暴動
▶5月10日(木)西ジャワ州デポックの暴動の起きた刑務所外で、2人組が警察官を刺殺
▶5月10日(木)西ジャワ州ブカシで、刑務所暴動の「支援」に向かった過激派4人逮捕
▶5月12日(土)ジャカルタ市の警察機動隊本部を、刃物で襲おうとした2人の女性逮捕
前週のサマリーはこちら

インドネシアの連続テロ事件(2018年5月13日まで) - 前途無難

当週は、次のようなテロ事件が発生した。
▶5月13日(日)西ジャワ州チアンジュルで早朝、警察の特殊部隊とテロの容疑者4人組が銃撃戦を起こし、4人すべて射殺。
▶5月13日(日)東ジャワ州スラバヤ市で連続爆弾テロが発生、13人死亡・40人負傷。
▶5月13日(日)東ジャワ州シドアルジョの警察署付近にあるアパートメントで爆発、
       家族5人のうち3人死亡・2人負傷。
▶5月14日(月)東ジャワ州スラバヤ市の警察本部で爆弾テロが発生、
       実行犯4人死亡、市民6人・警察官4人負傷
▶5月16日(水)リアウ州プカンバルの警察署に刃物を持った4人組が車で突入、
       警察官1人を殺害。容疑者は射殺。

インドネシアでは2010年以降、対人被害の出るテロ事件は10件以下であり、この続発は異例である。
また、ターゲットについての変化も見られ、ここ数年のテロは警察など治安組織を標的としたものだったが、スラバヤ市では無差別テロに「成功」してしまった。
大都市の人の集まりやすい場所、宗教施設、ナイトクラブなどは、標的として少なくとも「検討」されていると考えておいたほうがよいだろう。
2000年代にはJWマリオットなどのホテルが標的にされていたことから、宿泊先でもなるべく低層階を避ける、ロビーなどから安全な部屋に早めに移動する、といった注意を払うことも望ましい。

一方。警察や官公庁は、この数年で最も頻繁に狙われるターゲットであるため、接近しないまたは必要最小限の接近にすべきである。
実際に、リアウ州では警察狙いのテロが発生している(5月16日)

2. スラバヤ市での連続テロ事件詳細

a)  スラバヤの教会爆破事件(続報)
5月13日(日)、スラバヤ市の教会3か所(ディポネゴロ・インドネシアキリスト教会、サンタ・マリア・カトリック教会、スラバヤ中央ペンテコステ教会)で爆弾テロが発生した。
爆弾テロは日曜日の礼拝開始時間直前を狙ったもので、13人死亡・40人以上負傷した。
その後、同市の2つの教会でも爆弾が発見されたが、こちらは未遂に終わった。
未遂の爆弾テロが仕掛けられたのは、下記の2か所。
①聖ヤコブ教会:所在地は西スラバヤのシトラランド住宅施設(Citraland housing complex)
②イエスの聖心教会:所在地はポリシ・イスティメワ(Polisi Istimewa)*1

b) 東ジャワ州シドアルジョで「誤爆

同じ5月13日(日)夜21時頃、東ジャワ州シドアルジョ(Sidoarjo)のタマン警察署裏手のアパートメントで爆発が起き、家族5人のうち3人が死亡、子供2人が負傷した。
テロのために用意していた爆薬が、誤って爆発したために起きたと見られている。
その後の調査で、このときに用意されていた爆発物は、スラバヤ市の教会爆破に利用されていたものと同じ過酸化アセトン(TATP)だったことが明らかになっている*2。

c) スラバヤ警察本部で爆弾テロ

続いて、翌5月14日(月)スラバヤ警察本部で爆弾テロが発生し、実行犯の5人家族のうち4人が死亡した。
爆発により、市民6人・警察官4人が負傷した。
教会爆破事件の実行犯一家と、この事件の実行犯一家は友人関係にあったと報じられている*3。

これらの一連の事件から推測すると、同調者は少なからぬ数がいるのは間違いない。
後述のように、取り締まり強化のために一時的には「沈静化」すると思われるが、常にテロを起こす「機会」を探されていると見ておくべきだろう。


3. 対テロ特殊部隊が摘発急ぐ

テロの頻発を受け、対テロ特殊部隊「デタッチメント88」を中心とした摘発が、各地で行われた。

a) ジャワ島での摘発

▶5月15日(火)東ジャワ州スラバヤ、マラン(Malang)、パスルアン(Pasuruan)で摘発が行われ、13人逮捕
マランでは、東ジャワ州でのJAD指導者で、「アブー・ウマル」を名乗る男性が逮捕された。
また、容疑者1人を取り締まりの過程で射殺*4 

▶5月16日(水)バンテン州タンゲランの2か所で対テロ特殊部隊の摘発が行われ、男性3人、女性1人を逮捕*5
▶5月17日(木)東ジャワ州で、テロ関係者23人を逮捕、取り締まり中に4人を射殺*6

b) スマトラ島での摘発

▶5月16日(水)北スマトラ州警察は、タンジュンバライ(Tanjung Balai)などでテロの容疑者複数人を逮捕
メダン市でも少なくとも2人が逮捕され、取り締まりの過程で、容疑者1人を射殺・1人を負傷させたことも公表した。
▶5月17日(木)リアウ州でテロ容疑者8人を逮捕し、武器(詳細不明)やISILの旗などを押収したと発表

拘束者のなかにも女性が含まれているが、一連のテロ事件で問題視されているのが、子供や女性が実行犯として加わったことである。
インドネシアでは2016年12月に自爆テロ未遂で女性2人が逮捕されており、また、1990年代のいわゆる「ポソ宗教戦争」でも子供兵の利用が指摘されている。
これらをふまえると、インドネシアでテロや武装闘争に女性や子供が加わるのは、必ずしも「初めて」の現象とは言えない。
だが、一般には自爆テロに関与させることには反感が根強く、インドネシアウラマー評議会などが次々に非難声明を出している。

 

 

*1  Time, 14 May 2018, Indonesia Suffers Its Worst Terrorist Attack in a Decade. Here's What to Know About the Latest Wave of Violence, http://time.com/5275738/indonesia-suicide-bombings-isis-surabaya/
*2 The Jakarta Post, 13 May 2018, Two children survive premature bomb explosion in Sidoarjo, http://www.thejakartapost.com/news/2018/05/13/two-children-survive-premature-bomb-explosion-in-sidoarjo.html

*3 Time, 14 May 2018, Ten Injured in Explosion at Surabaya's Police Headquarters, Indonesian Officials Say, http://time.com/5275768/indonesia-surabaya-police-explosion/

*4 The Daily Telegraph, 15 May 2018, One dead, arrests in Indonesia terror raid, https://www.dailytelegraph.com.au/news/breaking-news/indon-suicide-bombs-work-of-two-families/news-story/5cb68ad5a2d8f9b0ed7acaa42c51493e

*5 The Jakarta Post, 16 May 2018, Police arrest three suspected terrorists in Tangerang, http://www.thejakartapost.com/news/2018/05/16/police-arrest-three-suspected-terrorists-in-tangerang.html

*6 The Straits Times,18 May 2018, Indonesia nabs dozens of terror suspects, https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/indonesia-nabs-dozens-of-terror-suspects

フィリピン主要事件(2018年5月6日~12日)

HEADLINES
1. ケソン・シティでISIL系過激主義者を拘束
2. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く
3. 「麻薬戦争」による死者は21か月で4200人超

 

1. ケソン・シティでISIL系過激主義者を拘束

 5月7日(月)ケソン・シティのクバオ地区(Cubao)で、過激派組織「マウテ・グループ」の幹部ウンデイ・マカダート(Unday Macadato)が逮捕された。
周辺住民から、銃火器を見せるなどして威嚇している男がいるとの通報がなされたため、違法銃所持容疑で警察が身柄を拘束したところ、マカダート容疑者と判明した。

 「マウテ・グループ」とは、ミンダナオ島を拠点にISILに忠誠を誓う組織である。
2017年夏に、ミンダナオ島の南ラナオ州マラウィ市で、アブ・サヤフとともに市街地占拠事件を起こしたことで、その名が知られるようになった。
現在は、その後の掃討作戦でほぼ壊滅状態と見られている。
マカダート容疑者は、マウテ・グループに関する摘発リストの上位に登録されていた。

 こうした過激主義者が、マニラ近郊に侵入しており、かつ銃火器を保持していたことには注意を払うべきだろう。
4月27日(金)にも、ラグナ州でISILに近い「ラジャ・ソレイマン運動」のメンバーが逮捕される事件が起きており(その週のサマリーはこちら→ フィリピン主要事件(2018年4月22日~28日) - 前途無難)、個人単位でローンウルフ・テロが起きても不思議ではないことが分かる。


2. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く

 2018年5月14日(月)に、フィリピンでは地方選挙が予定されているが、依然としてこの選挙をめぐる暴力事件・殺人事件が横行している。
5月10日(木)までに、選挙関係者少なくとも24人が殺害されたことが判明しており、フィリピン国家警察によると、少なくとも20件の暴力事件で、死傷者は57人にのぼった。

 当週、確認されただけで以下のような事件が起きている。
▶ 5月10日(木)リサール州アンティポロ(Antipolo)で、地方議会議長の男性が公用車で帰宅中に襲われ、射殺
▶ 5月10日(木)ケソン州サリアヤ(Sariaya)で、町議会議員の男性が自宅にいるところを3人組の集団に襲われ、射殺
▶ 5月12日(土)ラウニオン州アグー(Agoo)で、州選出の元国会議員ボディガード2人とともに射殺
▶ 5月12日(土)南サンボアンガ州ラバンガン(Labangan)で、選挙報道に関係する男性がハイウェイ上で襲われ、殺害

 選挙が終わればこうした傾向は沈静化するとみられるが、そもそも銃器の流通量の多い国家であり、選挙以外の要因でも殺人事件が普段から頻発していることには、注意しておくべきだろう。


3. 「麻薬戦争」による死者は21か月で4200人超

 フィリピン国家警察は、2016年7月から麻薬取締作戦(通称「麻薬戦争」)により、4,251人の容疑者を殺害した、と公表した(5月7日)。
発表によると、取締作戦によって、21か月のあいだに98,799件の取締が実施され、逮捕者総数は14万2069人にのぼった。

 ドゥテルテ政権の「麻薬戦争」をめぐっては、国際人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」が12,000以上死亡したとの推計を出していたほか、上院議員アントニオ・トリラネス氏は2万322人が死亡したとの推計結果を2018年2月に発表していた。
今回の発表は、これらの批判を念頭に、「正確な数字」を明らかにすることで批判を回避する狙いがあると見られる。

 しかし、21か月で4200人超という数字は、単純計算で月200人が殺害されていることを意味する。
この公表が、はたしてむやみな殺人を抑制していることになるようなものなのか、疑問ではある。
なお、こうした「殺害」はマニラ首都圏の近郊でも発生している。

タイ主要事件(2018年5月6日~12日)

HEADLINES
1. バンコクで麻薬シンジケート摘発
2. 日本人がカード窃盗被害

 

1. バンコクで麻薬シンジケート摘発

 バンコク市ディンダエン(Din Daeng)で、5月10日(木)、麻薬シンジケートの関係者6人が摘発・逮捕された。
覚醒剤メタンフェタミンの錠剤1,000万錠や、「アイス」398kgなどが押収された。
集団は、バンコク市のジョムトーン(Jom Thong)を拠点に麻薬を販売しており、同日夜に車4台の車列で移動しているところを発見された。

 また、東北部のカーラシン県ノーンクンシー(Nong Kung Si)でも、5月12日(土)、麻薬の密売人が発見され、拘束しようとする警官隊と銃撃戦になった。
密売人の男性は、その2日前に摘発に当たった警察を殺害しており、今回はその場で射殺された。

 タイではもとより、違法薬物に関する犯罪が後を絶たなかったが、近年は覚醒剤合成麻薬の流通量が急増しているといわれる。
特に、ミャンマー少数民族地域から「良質な」メタンフェタミンが送られており、価格下落も引き起こしていることが知られる。
「輸出元」の少数民族のなかには、ミャンマーで反政府武装闘争を行っているグループもあるとされており、それらの資金源として違法薬物が利用されている。


2. 日本人がカード窃盗被害

 バンコクで日本人の関係する目立った事件が2件発生した。

 5月10日(木)、バンコク市クロントイ(Khlong Toey)にあるショッピングモールで、日本人観光客のクレジットカードを悪用しようとしたタイ人2人組が逮捕された。
2人組は、ATMで日本人のクレジットカードを発見し、これでスマートフォンを購入して転売することを試みた。
ところが、購入を試みる際にカード裏のサインが6回一致せず、不審に思った店員が通報したため、容疑者は逮捕された。

 また、5月9日(水)、バンコクのドンムアン国際空港で、ライフルの空弾倉や対人地雷の破片を所有していた日本人観光客の男性が逮捕された。
男性は、日本国籍の27歳で、ドンムアン国際空港から日本へ帰国する途中だった。
ベトナム戦争や太平洋戦争など過去の戦争に関する「土産品」のコレクターで、押収品はベトナムで購入したと供述している。
武器に関するものはもとより、骨董品なども文化財として持ち出し禁止の対象となっていることが多く、購入・所持には留意が必要である*1。

 


*1(余談)向田邦子の著作のなかには、タイでスワンカローク(宋胡録)の小さな壺を買った、なんていう記述がある。
うらやましいとは思うものの、やはり文化財規制のゆるかった1970年代だからできたことで、現在ではしないほうが利口だろう。
タリバーンイスラーム国(ISIL)も、資金源とするためにイラクアフガニスタン文化財を売り捌いたりしていることが知られており、購入する際も注意することが望ましいかもしれない。
東京でもまれに、「これは、まずいんじゃないのか」と思うものが出品されていたりするから、「グローバル化」というのも困ったものである。

インドネシアの連続テロ事件(2018年5月13日まで)

HEADLINES
1. ジャワ島各地でテロ事件が続発
2. ラマダーン期間とテロの関係
3. 事件詳細:西ジャワ州デポックで刑務所暴動
4. 事件詳細:東ジャワ州スラバヤ市で連続爆弾テロ

 

1. ジャワ島各地でテロ事件が続発

 5月4日(金)以降、インドネシアではテロに関する事件が相次いでいる。
13日(日)時点でもスラバヤ市で爆弾テロが発生し、この状態は継続中といえる。

 個別の事件は後述することとし、最初に全体の動向をまとめて理解したい。
まず、このところ発生している主なテロ関連事件は次の通りである。
▶5月4日(金)(西ジャワ州ボゴール)学生ら3人を爆弾テロ計画の容疑で逮捕
▶5月9日(水)(西ジャワ州デポック)テロリストなどを収容する重警備区刑務所(Mako Brimob)で収監者が暴動
▶5月10日(木)(西ジャワ州デポック)暴動の起きた重警備区刑務所の外で、男性2人組が警察官を刺殺
▶5月10日(木)(西ジャワ州ブカシ)刑務所暴動の「支援」に向かおうとした4人逮捕
▶5月12日(土)(ジャカルタ市)警察機動隊(Mobile Brigade Police)本部を、刃物で襲撃しようとした2人の女性逮捕
▶5月13日(日)(西ジャワ州チアンジュル)警察特殊部隊とテロ容疑者4人組が銃撃戦
▶5月13日(日)(東ジャワ州スラバヤ市)連続爆弾テロが発生、13人死亡・41人負傷

 インドネシアでは2010年以降、対人被害の出るテロ事件は年間10件以下であり、この続発は異例の事態といえる。
もっとも、上記の7件の事件のうち、3件は西ジャワ州の刑務所暴動に関するものであるため、数え方によっては5件。

 問題は、当面のあいだ、こうしたテロが続くかどうか、だ。
この際にまず考えなければならないのは、刑務所暴動に「支援」に向かおうとした事件が少なからず起きていたことである。
また、機動隊本部への刃物での襲撃など、「ローン・ウルフ」と見られるものの、暴動への同調が窺える事件も起きている。
これらから推測すると、今後も同調者がテロを起こすと考えるべきだろう。

 また、スラバヤ市でのテロが、明らかにキリスト教会を狙っていたことから、無差別テロにも警戒を要する。
インドネシアでは、2000年代を中心にホテルやナイトクラブなどをねらった無差別テロが頻発していたが、最近は基本的に治安機関を狙ったものが「主流」となっていた。
ところが、スラバヤでの多数の市民を巻き込む意図がみえる事件は、これまでの性質の変化ないし「回帰」をうかがわせる。

 

2. ラマダーン期間とテロの関係

 さらに、5月16日(水)からイスラーム教徒はラマダーン期間にはいる。

 一般に、「ラマダーン期間はテロが増える」などと言われるものの、インドネシアでは実は、ラマダーン期間にテロが増えるとは観察できない。
たとえば、下のグラフは2016年のインドネシアでのテロ事件を月別に集計したものである*1。
この年は6月6日から7月5日がラマダーン期間だったが、その期間にテロが増えているわけではない。

f:id:infoPOD:20180615132458p:plain

 全世界的に見ても、ラマダーンの時期だからといってテロ事件が増えるというのは、相関関係が確認できるほどの傾向ではない。
むしろ、単に「そのように言われているだけ」であると考えるべきである。

 しかし、今年は上記のようにテロがラマダーンを前にテロが続発してしまい、さらにこれらが過激派組織の「宣伝」に利用されるため、「結果として」ラマダーン時期に前後してテロが集中する可能性は高い。

 スラバヤ市で無差別テロに「成功」している点を鑑みると、ジャカルタ中心部の人の集まりやすい場所(タムリン通りなど)、宗教施設、ナイトクラブなどに接近するのは避けるべきだろう。
また、ホテルや空港では、チェックインなどを手早くすませられる時間を確認し、なるべく早急に安全な場所(たとえば空港だと手荷物検査場以降のスペース、ホテルでは客室など)に移動するほうが、身の安全に資することになろう。

 

3. 事件詳細:西ジャワ州デポックで刑務所暴動

 5月9日(水)、西ジャワ州デポック(Depok)にあるテロリストなどを収容する重警備区刑務所(Mako Brimob)で、拘束者が暴動を起こした。
警察官5人が殺害され、衝突中に収容者1人も死亡した。
警察の報道官によると、事件は5月8日(火)夜に、収容者の食料要求を拒否したことで始まった。
刑務所には約130人が収容されていたが、10日(木)朝までに事態は収拾された。

 この事件に引き続き、上記のように「支援」のためとみられる行動が連発したことも注目する必要がある。
▶5月10日(木)西ジャワ州デポックの、暴動の起きた重警備区刑務所の外で、男性2人組が警察官を刃物で刺殺
▶5月10日(木)西ジャワ州ブカシで、刑務所暴動の「支援」に向かおうとした過激派のメンバー4人が逮捕
これらは明示的に支援を謳っており、潜在的にはより大きな数が存在するだろう。
後者の4人の逮捕事件では、関与する組織も、ジェマ・アンシャルート・ダウラー(JAD)と明らかにされている。
JADは、かつてインドネシアで爆弾テロなどをたびたび起こしていたジェマ・イスラミーアの分裂した組織である。

 一方、この事件について過激派組織「イスラーム国」(ISIL)は犯行声明を出したが、関与の明確な根拠はない。
暴動の首謀者は、ISILに忠誠を誓っていたとも報じられているが、そもそもの発端は食事をめぐる争いであり、あくまで偶発的な刑務所暴動であったものに、過激派が便乗したものと見るべきであろう。

 

4. 事件詳細:東ジャワ州スラバヤ市で連続爆弾テロ

 5月13日(日)、東ジャワ州スラバヤ市で、爆弾テロが少なくとも3回連続して発生し、13人が死亡、41人が負傷した。
爆発は午前7時30分(現地時間)ごろに、市内の3か所のキリスト教会で発生した。
54人の死傷者のうち、警察官は2人(負傷)で、これまでの治安機関狙いのテロとは性質が異なるとわかる。

 1回目の爆発はサンタ・マリア・カトリック教会、2回目はスラバヤ中央ペンテコステ派教会、3回目がGKIディポネゴロ教会で、ほぼ時間的に間を置かず発生した。
一連の爆弾テロは、市内に住む一家によるものであると見られ、2人の少年がバイクでサンタ・マリア教会を、その父親が車でスラバヤ中央教会を、母親と娘2人がディポネゴロ教会を爆破した。
日曜日の午前中のため、キリスト教会はいずれも礼拝の人々が集まってきていた。

 このテロ攻撃についても、ISILはアマク通信で犯行声明を出したが、関与の明確な証拠は示していない。
だが、自爆テロを行った一家は、シリアからの帰還家族であるとの情報もあり、その場合には、いわゆる「帰還外国人戦闘員」(returned foreign fighters)によるインドネシア初のテロということになる*2。
帰還家族との情報が事実とすると、爆弾の製造方法や戦術面で、少なからずISILの影響があったと見ることができる。
この点では、前記の刑務所暴動とはまったく性格を異にすると見てよい。

 関連して、爆弾テロの未然阻止が少なくとも2件報じられている。
1件目は、5月4日(金)に西ジャワ州ボゴールで、17歳の学生ら3人が爆弾テロ計画の容疑により逮捕された事件である。
警察庁舎ならびに警察署をねらった自爆テロを計画しており、高性能の爆発物も押収された。
いま一つの事件は、スラバヤ市でのテロと同じ5月13日(日)早朝、西ジャワ州チアンジュル(Cianjur)で、警察の特殊部隊とテロの容疑者4人組が銃撃戦になり、4人とも射殺された事件である。
4人組は、スカブミ(Sukabumi)からチアンジュルに移動しているところを特殊部隊に追跡され、部隊が逮捕に踏み切ろうとしたところ銃で反撃したために全員射殺された。
車からは爆発物を入れた袋3個、拳銃2丁などが押収された。

 

*1 メリーランド大学を中心としたコンソーシアムGlobal Terrorism Databaseに基づく。
https://www.start.umd.edu/gtd/
*2 後日、国家警察はこの情報を訂正し、シリアへの渡航歴はないとした。

フィリピン主要事件(2018年4月29日~5月5日)

HEADLINES
1. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く
2. 過激派組織アブ・サヤフが分裂か
3. ネグロス・オリエンタル州でジャーナリスト殺害

 

1. 地方選挙に関する候補者らの殺害続く

 2018年5月14日(月)に、フィリピンでは地方選挙が予定されている。
この地方選挙を前に、当週までの3週間で、関係者少なくとも22人が殺害された。
5月5日(土)にフィリピン国家警察が発表したところによると、22人のうち、12人がミンダナオ地方、4人がルソン地方、4人がビサヤ地方で殺害された。
別の観点では、現職候補者が12人、2人が首長の新人候補、6人が関係市民である。

 前週までで少なくとも選挙関連の暴力により11人が死亡しているため、1週間で11人が殺害されたと分かる。
今回の地方選挙が行われる対象は、村落(Barangay)の首長と、青年議会(Sangguniang Kabataan・若年層に関する政策の決定権を持つ)の議員である。

 

2. 過激派組織アブ・サヤフが分裂か

 過激派組織アブ・サヤフの最高幹部のひとりであるヤシル・イガサン(Yasir Igasan)が死亡し、過激派組織アブ・サヤフが分裂した可能性がある、とフィリピン国軍が明らかにした。

 発表によると、イガサンは昨年10月に脚部の怪我がもとで死亡、その後、組織が後継者をめぐり分裂闘争に至った可能性がある。
投降したイガサン配下の戦闘員から聴取した情報に基づくと国軍は発表している。

 ヤシル・イガサンは、スールー州ホロ(Jolo)を拠点とするアブ・サヤフの幹部で、1970年代生まれとされるため、年齢は45歳前後ということになろう。
南ラナオ州マラウィ市のイスラム系教育機関に学び、10代で早くもアフガニスタン渡航ソ連軍との戦闘に参加した。
フィリピンに帰国したのち、2007年にはアブ・サヤフの精神的指導者に就いたとみられていた。

 イガサンが確実に死亡したか否かについて、国軍は「調査中」との慎重な姿勢をみせているが、事実であれば、そもそも退潮気味のアブ・サヤフに致命的な打撃となる。
一方で、組織が分裂した結果として、小規模な過激分子が一時的に活発化することも、一般論としては考えられる。


 ところで、4月30日(月)に米国財務省は、ミルナ・マバンサ(Myrna Mabanza)という女性を、ISILの活動家としてテロリスト一覧に登録したと発表した。
アブ・サヤフの軍事指導者イスニロン・ハピロン(2017年に死亡)らと協力関係にあった、と指摘している。

マバンサは、バシラン州を拠点としており、かつて教師として勤務していたとされる。
財務省担当者によると、マバンサはISILの資金的ネットワークの一部で、東南アジアの過激主義者をつなぐ「仲介者」のような役割を果たしていた。

 

3. ネグロス・オリエンタル州でジャーナリスト殺害

 ネグロス・オリエンタル州のドゥマゲテ(Dumaguete)で、現地のラジオ放送局に努めるジャーナリストが、複数個所を銃で撃たれて殺害された。
犯行の背景は明らかでないが、フィリピンでは、犯罪組織がらみの事件や薬物取引などを報道するジャーナリストが、しばしば殺害される 。

 ドゥテルテ大統領は、この殺人事件について、直接に捜査を命じた。
大統領直轄の「メディアの安全にかかわるタスクフォース」は、5月2日(水)、報道に関する業務遂行に関して殺害された可能性が高い、と指摘している。

タイ主要事件(2018年4月29日~5月5日)

HEADLINES
1. バンコクなどで反軍事政権デモ
2. 深南部ヤラー県で爆弾テロの準備か
3. 痩身のための「薬品」により死者

 

1. バンコクなどで反軍事政権デモ

 タイ国内各地で、民主化要求デモなどの街頭行動が相次いだ。

 まず、4月29日(日)に北部のチェンマイ市で、宅地開発に反対する集団約1,250人が抗議集会を行った。
同地での集会としては、2014年の軍政による政権掌握以降最大級のものとなったが、あくまで平和的に行われた。
理由の一端は、政治的なスローガン等を一切掲げず、あくまで開発反対を謳ったため。
もっとも、開発を容認した政府への批判が含まれていたと見られている。

 バンコクでは、5月2日(水)にプラナコーンにある国連施設周辺で、民主化を求める集会が開かれた。
これは、早期の民主化を求める「正しい社会のための人民運動」(People‘s Movement for Just Society)のメンバー900人によるもので、座り込みなどを行ったが、警察官300人に排除された。

 また、5月5日(土)には、バンコク市タンマサート大学(Thammasat University)でも民主化デモが発生した。
およそ500人が集まり、軍政が5年目を迎える5月22日までに、選挙実施の確約などを行うよう求めた。

 2014年に実質的なクーデタで政権掌握した軍政は、選挙実施と民政移管を宣言しているものの、延期措置を繰り返している。
そのため、大学やショッピングモールなどでしばしば民主化要求デモが開かれている。
現時点では、集会も平和的なものにとどまり、暴力的な応酬にはなっていない。
しかし、鎮圧部隊との予期せぬ衝突も考えられ、こうした現場に近寄らない、すぐに立ち去る、といった対策やシミュレーションはしておくほうがよいだろう。

 

2. 深南部ヤラー県で爆弾テロの準備か

 5月2日(水)、深南部のヤラー県で、カンボジア人男性が刺されて死亡し、バイク1台が盗まれる事件が起きた。
警察はこれをテロの準備と見ており、盗まれたバイクが爆弾テロに使用される恐れが高いとして、追跡ならびに捜査を進めている。
タイ深南部では、2018年に入って4か月のあいだに98回のテロ事件が発生しており、52人が死亡・116人が負傷している。

 ところで、4月30日(月)に、同じく深南部のパッターニー地方裁判所で、2016年に発生した爆弾テロ事件に関する裁判が開かれ、6人に死刑判決、3人に終身刑、1人に懲役40年が言い渡された。
被告は、パッターニー県で2016年6月から12月にかけて5件の爆弾テロに関与した容疑により、訴追されていた。
ただし、タイでは過去8年間死刑の執行はなされていない。


3. 痩身のための「薬品」により死者

 「リン」(Lyn)という名称の、痩身のための「薬品」により死者が出ていたことが、4月30日(月)までに判明した。
痩身剤「リン」は、最近だけでも4件の死亡例が生じていた。
当局が調査に乗り出したところ、複数の危険な化学物質が含まれていることが判明、チョーンブリ県在住の男性らが拘束された。
「リン」は、パトゥム・ターニー県の"Food Science Supply Service Co"が製造し、"Ekakkharin Co"が販売していた。

 タイに限らないが、市販のサプリメントや化粧品などの、特に安価なものには危険な化学物質や非衛生的な原料が用いられていることが少なくない。
口にするもの、肌に直接つけるものなどは、信頼できる店舗でのみ購入するなどの対策を、改めて喚起する事件である。